私は、大学生活が大嫌いだった。別に何があったわけではないのに何をしていてもつまらなくて「辞めたいな」と何度も思っていた。ただ、大人になった今、私は大きな後悔を抱えている。瀬尾まいこさんの『私たちの世代は』は、私のその後悔をさらに色濃く心に浮かび上がらせるような物語だった。彼女の描く物語があまりにも優しくて、愛情にあふれていて。
◆『私たちの世代は』/瀬尾まいこ

『私たちの世代は』は、感染症の流行で小学校が休校になり、不自由を余儀なくされた冴と心晴の物語。テーマがテーマなだけに、少し構えてしまう部分があるかもしれないが、瀬尾さんの物語はいつも優しさと愛情に満ちている。
本作は冴と心晴の小学校時代から始まり、大人になるまでを描いていて、多感な時期に人と交流することが難しかった二人がどのように成長したかが見えるお話。子どもの頃って、大人が言っている「正論」のようなことが理解できなかったり、「大人はなんにもわかってない」と思うことが多かったりする。自分のことを振り返ると、それは周りの友達に対してもそう感じてしまうことがあった。誰も私のことわかってくれないじゃん、って。
◆あの頃言えなかった「ありがとう」を思い出す物語
冴と心晴は、それぞれに人との関係に悩みながら大人になり「人と言葉を交わすこと」や「人のことを想像すること」の大切さを学んでいく。この物語を読んで、私は大学時代の友達のことを思い出していた。自分で決めて入学した大学なのに、私は大学生活がものすごく嫌いだった。とにかく毎日つまらなくて、授業もあまり真面目に受けていなかったし、サークルにも部活にも入らず、空いた時間はバイトばかりしていた。社会を知ることが出来るバイトの方がそのときは楽しくて、バイト仲間の方が大切だった。
それでも大学生活で私がひとりになる瞬間は一瞬もなかった。大学の友達は、いつも私のことを気にかけてくれていて、授業をサボった時も、明らかにやる気がない時もいつも心配して側にいてくれたし、遊びにもよく誘ってくれた。この時の私ときたら「なんでこんな態度の私のことを大切にしてくれるんだろう」と本気で疑問に思っていた。正直今振り返っても同じことを思っている。
大学を卒業すると、私は彼女たちの連絡先を消したし、彼女たちとは二度と会うことがなかった。誘われた卒業旅行さえ行かなかった。でも大人になった今、気付いたのだ。私の大学生活は、彼女たちなしではもっとつまらないものだった、ということに。「つまらない」と言いながらも人間関係で嫌な思いをしたことは一度もなく、卒業できたのは、きっと彼女たちの優しさのおかげだった。
私は、想像力が足りていなかった。誘っても誘っても断る私のことを、彼女たちがどんな思いで誘ってくれていたか。卒業したらなんの音沙汰もない私のことを、どういうふうに思ったか。私は嫌な思いをしたことがないけれど、彼女たちは嫌な思いを何度もしていたんじゃないか。そのことに考えが至ったとき、心臓がひゅっと音を立てるような感じがした。
この物語を読んで、冴と心晴の成長を追って、私の頭には苦々しいその記憶が浮かんだ。今はこんなに言葉が大切だと思えているのに、なんであの時はわからなかったのだろう。なんであの時「ありがとう」と言えなかったのだろう。今突然連絡をしても怖いだろうし、正直私の自己満足だ。わかってはいるけれど、冴と心晴が言葉を尽くして人と関わり、少し勇気を出して一歩進んでいく姿を見て、あのとき言えなかった「ありがとう」を、今からでも言いたい、と思った。



