人には誰にでも触れられたくないじくじくした感情がある。「あのときこうしてたらよかった」と思うことが、大人になった今でもある。若林正恭さんの『青天』は、苦い気持ちを思い出させてくれる本でもあるし、そんな自分ととことん向き合いたくなる物語だった。
■若林正恭の初小説『青天』あらすじ

『青天』は、若林さんの初の小説。「アリ」こと高校生の中村昴を主人公とした物語で、アメフトを題材とした小説だ。舞台は1999年。アリが所属するのは総大三高のアメフト部。万年2回戦止まりで、引退大会では強豪に大敗してしまう。引退後、周りが受験に向かう中、アリはどうも身が入らない。不良とつるんでみるものの、どこか「何してんだろ、俺」のような気持ちが拭えない。モヤモヤした気持ちを抱えていたアリは、再びアメフトと向き合う決意をする。
若林さんはこの物語でなんと直木賞候補にまでなってしまった。どこまで才能に溢れているんだ。若林さんの文体はとてもすっきりしてわかりやすいのに、モヤモヤした感情や陰っぽい感情も滲み出ているから不思議だ。淡々としていてどこか斜に構えているように見えるけど、実は心の中ではいろんな気持ちが渦巻いているアリの人物像が生々しく伝わってきた。
■アメフトを知らなくても読める?
さて、本作でネックとなるのが「アメフトを題材としている」というところだと思う。何を隠そう私も若林さんの小説はすぐにでも読みたいと思っていたが、なかなか手に取ることができなかった。アメフトわかんないしな…そもそもスポーツもの得意じゃないしな…と思い続けながらも、直木賞候補作に選ばれたタイミングでやっと購入した。
私が抱いた感情は「もっと早く読めばよかった」である。アメフトを題材としていると言っても、メインはあくまでもアリの心情の変化だ。アメフトのルールはまったくわからなくても大丈夫。なんなら私は読み終わった後も別にルールはわかっていない。その程度の理解度で問題ないので、「アメフト」がネックになっている人は安心してほしい。
■不器用で泥臭い青春小説
アリは、引退大会で負けた後に「あのときこうしていれば」という気持ちを抱えていた。例えばチームメイトとの距離感など。アリは結構傷つきやすいし、自分で抱えるタイプだ。途中でアリが一旦不良と絡むターンがあるのだが、そこのアリの悶々とした感じがたまらない。何してんだろ、と思いながらも周りに流されてしまう感覚に共感しすぎて心臓がキリキリしてしまった。
一度抱えてしまった後悔は、なかなか手放すことができない。しかしアリは弱い自分ととことん向き合っていく。その過程がとても不器用で、高校生の頃の、ぐちゃっとしていて整理できない感情を思い出した。結局は自分と、人とぶつかり合わなければ、相手のことはわからないし、自分のことすらもわからない。後悔は後悔でしかなくて、それを100%解消することなんてできない。過去でもなく未来でもなく「今」に立ち向かっていこうとするアリを見ていると、大人である私まで勇気をもらえた。
本作は単なる「さわやかな青春物語」ではない。もっと泥臭くて、もっと不器用な、「生きてる」感じの物語だ。


