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【読書感想】染井為人『滅茶苦茶』 コロナ禍を生きる3人の“滅茶苦茶”な生き様

染井為人さんの書く小説にどっぷりハマっている。

私が染井さんの本を初めて手に取ったのは、日本アカデミー賞を総なめにした映画『正体』の原作『正体』だ。もともと横浜流星さんの演技が好きで、あらすじを見ておもしろそうだったので、映画を見る前に原作を手に取った。

 

 

これがもう、すごくおもしろかった。もともと視点が変わる小説やサスペンス要素があるものが好きだったこともあり、見事にハマった。読んでいる最中は続きが気になりすぎて、最寄り駅に着いたにも関わらず駅の椅子に座って読んだ。寒くても、読んだ。(電車の中で読書するのがルーティンです)

『正体』の話はいずれたっぷりするとして、今回は『滅茶苦茶』の話をしたい。

あらすじ『滅茶苦茶』/染井為人

 

仕事は順調、東京でシングルライフを謳歌する30代女性が始めた不穏な恋愛。下校中、不良に堕ちた元級友に再会した、とある北関東の高校生。老朽化したラブホテルを継ぐが経営不振に陥った静岡県在住の中年男。

刹那な現代をサバイブしながらも、孤独を胸底に抱える者たちの欲望に駆られた出会いは、彼らをまっさかさまに谷底に突き落とす。(Amazonより引用)

あらすじの通り、物語は30代の独身女性・美世子、高校生・礼央、中年男・茂一を中心に話が進んでいく。この3人に接点はなく、バラバラと視点が変わってそれぞれの生活が映し出される。唯一の共通点は「コロナ禍を生きていること」。これを共通点と言ってしまうと登場人物すべてがそうなのだけれど。

コロナ禍真っ只中を生きている3人の苦悩

2020年、世界を未曾有の事態が襲った。新種のウイルス、新型コロナウイルスが猛威を振るい、不要不急の外出が制限され、「密」という言葉が飛び交っていた。今振り返ってみると、新宿から人が消え、渋谷から人が消え、あの光景はもうなかなか見られるものではないな、と懐かしささえ感じる。マスクが欠かせなくなり、エレベーターに乗ることさえ躊躇われた時代。友人とはリアルでなかなか会えなくなり、会社ではリモートワークが行われ、学校でもリモート授業が行われていた。

この物語は、そんな時代でもがいている3人を中心とした話だ。今だからこそ「懐かしい」とか「そんなことあったよね」と言えるが、あのときは「いつ終わるんだろう」という気持ちになった。もともと家が好きだったが、仕事も少なくなり話す人も大体同じで、時間を持て余していた。

コロナというよくわからないものに怯えながら過ごしていたあの時代。あの日々は、心も少しずつ疲れていってしまった。きっとこの登場人物たちもそうだったのだ。

東京でシングルライフを満喫する美世子は、友人から勧められマッチングアプリを利用する。高校生は、不良に堕ちた元級友に電車の中で再会する。老朽化したラブホテルを継ぐが経営不振に陥った中年男は、友人に誘われていったスナックである出会いをする。

いつだって、何かが始まるのは人との出会いだ。その人たちとの出会いをきっかけに、3人はそれぞれ想像もしなかったことに巻き込まれていく。コロナ禍だから、と理由をつけるのは簡単だが、それでも「コロナがなければ」と言いたくなるような3人の物語の展開。非常にスリリングで、「おいおいおい何してんのよ…」とツッコみながらも、もし自分がその立場に立ったらまったくしないかと聞かれると、正直わからない。追い詰められた人は何をするかわからない。3人もまた、心のネジのようなものがとても緩んでいたのだろう。

間違いなく「滅茶苦茶」な展開

「滅茶苦茶」というタイトルはシンプルでありながら秀逸だ。読み終わった感想としては、確かに「滅茶苦茶」だ。ただ、私はどうしても、彼らを憎むことができないし「バカだなぁ」と切り捨てることも出来ない。重いテーマを扱っているのに、どこか軽やかで、そして共感してしまうのは、染井さんが描く人物像に「自分」を感じるから。「私はそんなバカなことしない」なんて、あの状況で誰が言えるのだろう。コロナ禍で、正常な判断力が欠けてしまった人は少なくないはずだ。

染井さんの作品は、社会問題を扱っていても小難しくなく読みやすい。良いバランスでエンタメに昇華されていて、サスペンスやミステリーの部分では続きが気になってしかたない。決して暗すぎることはなく、笑えるところも必ずある。軽すぎず重すぎず、ジェットコースターのような展開の染井さんの作品にすっかり心を奪われている。