続いてる!続いてますよ!もう4ターン目ですよ!!!これはもしかしたら結末までいけるかもしれない。今回は前回の彼サイドです。
#1〜#3はこちら!
#4『交差点の彼』彼
あの日のインスタライブの後、マネージャーから電話がかかってきた。
彼も俺の性格をわかっているので、あまりうるさいことは言わなかった。ただ一言、「アーカイブは消せ」とだけ言った。SNSで少し騒がれているのを見たのだろう。
電話を切ると、短いバイブが鳴る。LINEを開くと母親からだった。
「あんまり現実的なこと言って、ファンの子悲しませるんじゃないよ」
まるで高校時代のような注意の仕方に、思わず頬が緩んだ。素直に「わかってる」とだけ返す。
目を閉じて、大きく息を吸って、吐く。
思い浮かべる。グループで立ちたい大きなステージ、支えてくれているファンの顔。きっとこの仕事は、嘘も必要なんだと思う。それはわかってる。俺が、誰よりも。
※
朝、自然と目が覚めた。窓の外には、真っ青な空が広がっている。
大きく伸びをして、枕の隣にはタブレットにてを伸ばす。画面には昨夜覚えていた台本が表示されたままだ。最近の台本は、紙ではなくデジタルが主流だ。覚えやすいのか覚えにくいのかよくわからない。
目を閉じて、昨日覚えたせりふを反芻する。大丈夫、覚えてる。
時計を見ると9時を少し回ったところ。今日の仕事は13時からだ。
スマホでファンとの交流アプリを開く。
「おはよ。良い天気」
一言送ると、すぐにファンから大量の返信が届く。歯を磨きながらその返信を見て、今日もみんな生きてんなー、元気だなー、と安心する。
「今日もがんばろ。休みの人はゆっくり休むんだよ」
もう少しだけ反応を見てからアプリを閉じる。こんな俺でも、何よりも大切にしているのはファンとの交流だ。なるべく身近に。なるべく友達っぽく。お前のそういうところが所謂「リアコ」を生むんだ、とメンバーに言われることもあるけど仕方ない。それが俺だ。
全身黒の服に着替えて、いつもの帽子とサングラスを身につけて外に出る。サングラス越しでもわかる、もう春だ。眩しいくらいの青空。あっという間に桜ももう葉桜になっている。
時々、あえて人の多い場所を歩く。誰かの日常を感じて、自分の感覚がバグらないように。
膨大な言葉を毎日耳にするたびに、どれが自分の考えなのかわからなくなる。「アイドル」っぽくこうするべきだ、ああするべきだ、あらゆるところから飛んでくる言葉で、自分が消えそうになる。アイドルだけど俺は人間。俺は俺。そのことをちゃんと感じるために、誰かの日常に紛れたくなるんだ。
※
渋谷はあまり好きじゃない。
田舎育ちだから、人が多い場所は苦手だ。
年々人が増えていく外国人観光客。渋谷や新宿を歩いていると、「ここは本当に日本か?」とさえ思う。
スクランブル交差点では信号が点滅を始めた。特に急いでいるわけでもないので、立ち止まって次の信号を待つ。
そのときだった。
小さな影が、爆速で横をすり抜けた。
直感的に腕を伸ばして、小さな手を掴む。女の子は突然のことに驚いたようで、かわいらしい顔を歪めて泣き出した。そりゃ怖いよな、サングラスのでかい男に急に腕を掴まれたら。
しゃがんで、サングラスを外し、女の子の目線に合わせる。ふと目に入ったのは、うさぎのヘアピン。かわいらしい。
外国の子っぽかったので「so cute」とほほ笑んでヘアピンを指差す。女の子は小さな指でそれを指して、にこっと笑った。
頭を撫でてやると、母親らしき女性が息を切らしてやってきた。女の子を引き渡すと、「スミマセン」と片言の日本語で謝られた。女の子が手を振ってくれたので、振り返す。かわいいな。
俺もいつか結婚とかして、子どもができて、親になんのかなぁ。
そんなことを考えながらぼーっと見送っていると、強い視線を感じた。顔を向けると、一人の女性がこちらをじっと見つめていた。目を丸くして、まるで時間が止まったみたいに。やばい、サングラス外してた。俺は誰もが知る大スターというわけではないけれど、さすがに渋谷だ。知ってる人もいるだろう。
咄嗟に口元に人差し指を持っていき、ほほ笑む。ごめん。見逃して。
彼女はなんの反応もせず、その場に立ち尽くしていた。サングラスをかけ直して交差点を歩く。見逃して、と思ってした行動なのに、名前も呼ばれなかったことに少しだけプライドが傷つく。そんな勝手な自分に苦笑してしまう。
誰もが知るような大スターには、まだ程遠いな。そんなことを考えながら、昨日覚えたせりふをまた反芻していた。脳がだんだんと仕事モードに切り替わっていった。
次回のお話の更新は4月21日の予定です。1話1話がだんだん長くなってきてしまい、もはやショートショートショートでもないですが(笑)、いつもスターありがとうございます。めちゃくちゃうれしいです!!!