恋愛の記憶は、どうしてこんなにも心を抉るのだろう。それが片思いであればなおさらだ。気持ちを伝えなかった片思い、気持ちを伝えてダメだった片思い、伝えるところまでいかなかった片思い。その記憶は、頭の奥の方に埋まっているはずなのに、いとも簡単に思い出せてしまう。自分が感じた気持ちと同じような経験をしている人を見たとき、そしてそんな人たちを描いた物語を読んだとき。
『愛じゃないならこれは何』/斜線堂有紀 あらすじ
斜線堂有紀のはじめての恋愛小説集。
/『愛について語るときに我々の騙ること』「俺さ、ずっと前から新太のことが好きだったんだ。だから、付き合ってくれない?」そういう男――園生が告白しているのは、私――鹿衣鳴花に対してだった。私たちの関係は、どこに向かおうとしているのか。男と男と女のあいだに、友情と恋愛以外の感情が芽生えることはあるのだろうか。
/『健康で文化的な最低限度の恋愛』美空木絆菜は死にかけていた。会社の新入社員、アクティブな好青年、津籠の気を引きたかった絆菜は、彼の趣味――映画にもサッカーにも、生活を犠牲にして一生懸命頑張って話を合わせた。そして今、絆菜は孤独に山の中で死ぬかもしれない。どうしてこんなことに。
/『ミニカーだって一生推してろ』二十八歳の地下アイドル、赤羽瑠璃は、その日、男の部屋のベランダから飛び降りた。男といっても瑠璃と別に付き合っているわけではない、瑠璃のファンの一人で、彼女が熱心にストーカーしているのだ。侵入した男の部屋からどうして瑠璃が飛び降りたのか、話は四年前にさかのぼる――。など。
(Amazonより引用)
アイドル×ファンの恋愛
恋愛をテーマにした6編の短編集。糖度はゼロ。だからといってドロドロした恋愛というわけでもない。それどころか、あまりにも切実で、苦しくて、胸が痛い。この6編の中でやはり触れたいと思うのは「ミニカーだって一生推してろ」。この話はあるアイドルがファンに恋をする物語だ。一言で書いてしまうとそうなのだが、そんな簡単なものではない。
ファンがアイドルに所謂“リアコ”をする展開は、現実世界でもよく起きる問題だ。ファンの行き過ぎた行動がアイドルを追い詰めてしまう事件もまあまあよく見る。しかしこの話の場合、“まとも”なのはファンの方。ファンはあまりにも純粋に一生懸命まっすぐにアイドルを応援している。アイドル側はというと、最初はその好意を純粋に受け取っていたし、励みにしていた。売れていなかった彼女は、そのファンのSNSを見ていくうちに自分も変わり、どんどん飛躍する。売れてからも、表面上の彼女と彼は、“アイドル”と“ファン”という適切な関係だった。しかし、アイドル側が、ファンに恋人がいると知ったとき、物語は転機を迎える。
私も、話せるアイドルを推している。お金を出せば話せるし、ある程度がんばれば覚えてもらえる。“アイドル”と“ファン”だって、大前提は人と人だ。きっとアイドル側にもお気に入りといったらなんだが「この子は話しやすい」とか「この子といると楽しい」とか、もっとあけすけに言えば「かわいい」とか「タイプ」だとか思うことはあるだろう。当たり前で、誰にも責められない。
しかしそこの一線は、あくまでも信頼関係と理性で成り立っている。ファンもアイドル側も、何かが外れたらいけないのだ。頭の中のネジというか、スイッチというか、階段というか、とにかくそこを出てはいけないのだ。でも、ふと考える。もともとは人と人。出会って話したら恋をすることもあるんじゃないか…そんなことをぐるぐる考えていたら、すべて綺麗事のように感じてきてしまった。とにかく、どちらかがまともじゃなくなったら終わりだ、アイドルとファンという関係は。でもきっと、だからこそその愛は、尊いのかもしれない。
親友同士の恋愛はありえるのか?
次に触れたいのは「愛について語るときに我々の騙ること」。これは男子二人女子一人の三人グループのお話。三人は学生時代からの親友で、三人でいることをいつもずっと大切にしてきた。でもこれが、変わってしまうのだ。恋というものが少しでもそこに介入するだけで。たぶんこのバランスは、ものすごく繊細なもので、たった1ミリでも介入してはいけない。恋が介入するとすべてのバランスが崩れる。
三人ではないけれど、私も高校時代に異性の親友がいた。絶対に変わらないと思っていた関係だったけれど、ある日告白された。このときのショックといったらなかった。まさか彼が自分のことを異性と思っているとは、1ミリも思わなかったのだ。もちろん彼とは付き合わなかったけれど、そこから私と彼は親友ではなくなった。そのことが私は今でも悲しくて寂しい。もしかしたら、うまくやれる方法があったのかもしれない。逆に今ならうまくできるのかもしれない。でも、そのときの私たちにはうまくできなかった。
よく、男女に友情はありえるか?という話題が上がる。これはもはや永遠のテーマみたいなものだ。この一件から私はきっぱり「ない」と答えているが、「ある」と答えて実際に異性の親友がいる人たちだっている。私は本当に、心から、あれから何年も経っているのに羨ましいし、今でも彼が親友だったらな、と感じる瞬間がたくさんある。
斜線堂有紀さんの本は初めて読んだけれど、切り口がおもしろくて、そしてひとつひとつの言葉に胸が抉られて、毎話痛くて心臓がじくじくした。けれど私はきっとこれからも読んでしまうし、斜線堂さんのことが大好きになってしまった。痛いのに、苦しいのに、もっと読みたい。まるで片思いみたいだ。
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