定期的に恋愛小説が読みたくなる。しかも、甘い小説ではなくて、片思い系のじくじくするもの。先日、“初恋”について人と話す機会があった。初恋というと、かわいらしい小学生の頃の初恋を思い出しがちだが、私がいつも思い出すのは高校生の頃の恋愛だ。あの頃を思い返すと、いつだって瑞々しい気持ちになる。それと同時に、少し苦い気持ちにもなる。何もわからずに、全力で恋愛していたなぁと思って切なくなる。恋をしていたときの記憶は、いつまでも自分の中でくすぶっている。終わったはずなのに、小説の中の恋の触れると、あの頃の自分が目を覚ます。
①『白いしるし』/西加奈子 あらすじ
女32歳、独身。誰かにのめりこんで傷つくことを恐れ、恋を遠ざけていた夏目。間島の絵を一目見た瞬間、心は波立ち、持っていかれてしまう。走り出した恋に夢中の夏目と裏腹に、けして彼女だけのものにならない間島。触れるたび、募る想いに痛みは増して、夏目は笑えなくなった――。恋の終わりを知ることは、人を強くしてくれるのだろうか? ひりつく記憶が身体を貫く、超全身恋愛小説。
(Amazonより引用)
この本、薄いのに全力で心を切りつけてくるような衝撃がある。内容自体は何度も読み返したい!みたいなものではないのに、どうしても手元に置いておいて、読み返してしまう。どうしても止められない気持ちって、こうだよ!ということをあまりにも的確に文章にした本、という感じで、過去の恋愛を思い出しながらヒリヒリしてじくじくする。恋をすると、客観的にはいられなくて、俯瞰で自分のことを見ていられなくなる。
鮮烈な恋愛は、それが「過去」になったときに改めて「あの頃ちょっとおかしかったかも」なんて笑えたり、後悔したりできる。でもそのときは気づかない。文字通り「夢中」だから。そう、本当に夢の中にいるような感覚。その感覚を知っているから、この本は、リアルで気持ち悪くて少し恥ずかしい。でもそのどうしようもない「好き」に向かっているエネルギーも知っているから、その感情が悪いこととは言えない、言えるわけがない。片思いしている人、していた人、推しに恋をしている人に読んでほしい。
②『すべて真夜中の恋人たち』/川上未映子 あらすじ
<真夜中は、なぜこんなにもきれいなんだろうと思う。それは、きっと、真夜中には世界が半分になるからですよと、いつか三束さんが言ったことを、わたしはこの真夜中を歩きながら思い出している。>
入江冬子、34歳のフリー校閲者。人づきあいが苦手な彼女の唯一の趣味は、誕生日に真夜中の街を散歩すること。友人といえるのは、仕事で付き合いのある出版社の校閲社員、石川聖のみ。ひっそりと静かに生きていた彼女は、ある日カルチャーセンターで58歳の男性、三束さんと出会う。
あまりにも純粋な言葉が、光とともに降り注ぐ。
いま、ここにしか存在しない恋愛の究極を問う衝撃作。
(Amazonより引用)
言わずもがなの名作。この本の何よりも強い魅力は「日本語」だと思う。なんて美しい日本語なのだろうと思う文章の数々で、日本語が読めてよかったな、と改めて感じられたものだった。物語は本当に静かに、ゆっくりと進んでいくもので、どちらかというと冬に読みたい物語。心を静かにしたいときに読むのもいいと思う。今現実に感じているしがらみや、面倒くささから解き放たれたい、みたいな気持ちのときに読むと、心が静まる気がする。
片思いは苦しい。でも、人を好きになるということは、まず大前提としてすごいこと。そんなに好きになれる人に出会えない人生だってきっとあるから。「好き」は思い込みだともよく言うし、「一目惚れ」は信じられない、という人も中にはいる。でも「一目惚れ」って、単にその人の外見に惹かれているわけではない。その人が纏っている雰囲気、空気、その人の周りに流れるものすべてに反応する。「身体的な重さ」、それが人にはあるんだと思う。
自分でも止められない感情は、突然来るからこそ、探して出会えるものではない。「心が奪われた」という感覚は、もしかしたら大人になればなるほど少なくなるのかも。大人になるのは自由で、でもちょっとだけ寂しい。冬子のまっすぐさが、少しだけ羨ましくなる。
③『恋愛中毒』/山本文緒 あらすじ
もう神様にお願いするのはやめよう。――どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように。哀しい祈りを貫きとおそうとする水無月。彼女の堅く閉ざされた心に、小説家創路は強引に踏み込んできた。人を愛することがなければこれほど苦しむ事もなかったのに。世界の一部にすぎないはずの恋が私のすべてをしばりつけるのはどうしてなんだろう。吉川英治文学新人賞を受賞した恋愛小説の最高傑作。
(Amazonより引用)
名刺代わりの小説にも入れていて、これ以上の小説にはもう出会えないと思うほど大好きな山本文緒さんの『恋愛中毒』。何度も読み返している。
「どうか、どうか、私。これから先の人生、他人を愛しすぎないように。他人を愛するぐらいなら、自分自身を愛するように」。
この文章がすべてを物語っているけれど、こんなに哀しくて美しい願いがあるのだろうか。抗えない出会いって絶対にやってくる。大切な一線を超えるか超えないかは自分の倫理観次第にはなるし、それを別に認めるわけではない。でもそれさえもふっ飛ばしてしまうような出会いが、きっと人生にはあるのだと思う。人を好きになるということは、たぶん“狂気”でもある。高校生の頃に初めて読んで、そんなことを強く思った本だった。
ずっと憧れていた人との信じられないような恋愛というロマンティックさもありつつ、“静かな狂気”に迫っていくバランス感がすごくて、何度読んでも手に汗握ってしまうし、同時に切なくて胸が潰れそうになる。
私はどうしても、甘くてかわいらしい恋愛小説よりも、どこかしらに狂気がある恋愛小説を好きになる。それって、表や行動には出さないけど、自分の“好き”の中にも“狂気”があるのかもしれないと少し怖くなってしまう。小説に出てくる彼女たちの行動は、しようとは思わないけど理解はできる、みたいな瞬間が少なからずあるから。
自分の中の“好き”にも、静かな狂気があるのかもしれない。それを見て見ぬふりをしたくて、でも少し誰かにわかってほしくて、私はこのような小説を読むのかもしれない。
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