本と映画と、少し寄り道

小説と映画の感想文をゆるゆると。

【5月に読んだ本・パート1】心に残った3冊と、静かに揺れた感情たち

5月は仕事をしたり福岡へ旅行に行ったり、忙しい月で充実した月だった。1年の中の5月って、さわやかだけどなんとなく不安だ。フリーランスで働いているため、新生活の不安とはもう何年も無縁だが、シャキッとしたスーツや制服を着ている人たちを街のあらゆるところで見て、おぼろげに不安を思い出す。心の中で少しだけエールを送りながら毎日を過ごしていた。そんな5月に読んだ本は6冊。先月同様、2記事に分けて紹介したい。まずはパート1の3冊です。

 

①ついでにジェントルメン/柚木麻子

 

 

分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。

 

編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。

Amazonより引用)

 

 

少し独特だなと感じた7篇の短編集。ファンタジー要素もあり、リアルな部分もあった。正直好みが分かれる本だな、と思う。柚木さんの描く世界は、いつも独特だな、と感じる。独特というのは決して悪い意味ではなくて、柚木さんの瞳で見る世界を少しお裾分けしてもらっているようで、いつも楽しい。

 

せっかくこの世に生まれたのだから、何か大きなことをしなきゃいけない、と思うときがある。しないともったいないだろう、と。でも、そんなことができるのはこの世の一握りの人間だろうと、すぐに諦めが頭に浮かぶ。そう思うたびに、なんて情けないんだろうとか、なんでできないんだろうとか、少し落ち込む。

 

この本に描かれている登場人物は、少し大きなことをしたり、しなかったり。でもすべてにおいて共通しているところは、登場人物たちが生き生きとしているところ。大きなことをしてもしなくても世界は回るし私は生きていく。それならなるべくご機嫌で生きていきたいと、柚木さんの世界に触れるといつだって思うのだ。

 

②翼の翼/朝比奈あすか

 

 

なぜ我が子のことになると、こんなにも苦しいの? ひとり息子の中学受験挑戦。塾に、ライバルに、保護者達に振り回され、世間の噂に、家族に、自分自身のプライドに絡め取られていく。過熱する親の心情を余すところなく描いた、凄まじき家族小説。

Amazonより引用)

 

 

中学受験を描いた親子の物語。私は中学受験の経験はないけれど、どうしたって小学校の頃の自分や周りのことを思い出す。私の両親は教師だ。教師だけど、親から「勉強しなさい」と言われたことはないし、「中学受験」という言葉も出てきたことがなかった。両親よりも私に勉強の大切さを説いていたのは祖母で、共働きだった両親に代わって祖母が私を育ててくれたみたいなところがあるので、正直私の「勉強」の価値観は祖母に植え付けられたといえる。

 

でもそんなに大したものではなく、テストで100点を取ると祖母がすごく褒めてくれたし喜んでくれた。あのときの自分は、勉強の楽しさなんてよくわかっておらず、「祖母に喜んでもらうため」に勉強をがんばっていた。その面では、私はこの物語の翼という少年にとても感情移入した。子どもの頃に植え付けられた価値観は、きっと大人になっても残る。子どもの頃の成功体験や、失敗体験、後悔も、きっと残る。実際に残っている。

 

私の場合は良い体験として残っている方だと思う。何か数字で結果が出ることが楽しいのは、成績次第で祖母が喜んでくれたからという経験があるからだ。私にとっては良い経験だったが、この物語の翼はどんな大人になるんだろう。大人になったときに、この中学受験の日々を、どうやって振り返るんだろう。読みながら胸がひゅっと音を上げるような怖さや冷たさもある作品だった。中学受験を乗り越えた人たちの読んだ感想も聞いてみたい。

 

③あかるい花束/岡本真帆

 

あかるい花束

あかるい花束

Amazon

 

岡本真帆さんの第二歌集。人生で初めて購入した歌集だ。この本との出会いは、名古屋に旅行したときの本屋だ。そのとき、とてもセンセーショナルなことがあった直後だった。なんとなく「かわいい」という気持ちで手に取ったこの本で、開いたページにあった歌を見た瞬間に、涙が溢れた。本屋にも関わらず、涙がこぼれてしまって、これは出会ってしまったのだと思った。

 

それはこの歌。

 

「天国が涼しい場所かあたたかい場所かをきみとふたり話した」(『あかるい花束』より)

 

このとき私は、身近ではないけれどずっと気にしていた人の死と、彼を大切にしていた人たちの死の受け止め方を目の当たりにしていたときで、この優しい歌と出会って救われた気持ちになった。この歌は、どういう背景で詠まれた歌なのかはわからない。たぶん私と違う解釈だろうな、と思う。でも、歌の良さは、本の良さは、そのときの自分の感情で受け止め方が違うところだ。だから楽しいし、救われる。再読の意味もそうだと最近感じた。

 

もうひとつ大好きな歌があるのだけれど、これに関してはシェアするよりも、自分の心の中に留めておきたい。そして読んだ人とは「どの歌が好きだった?」と語り合いたい。この瞬間を救ってくれた岡本さんの歌。宝物のような1冊が、また本棚に増えた。

 

 

4月に読んだ本まとめはこちらの記事から!

alittledetour.hatenadiary.jp

alittledetour.hatenadiary.jp