生まれて初めて作家さんのイベントに行った。イベント会場に足を踏み入れると、そこではほとんどの人が静かに本を開いていた。じっくりと読んでいる人も、パラパラとめくっている人もいる。溶けるような暑さの外とはまるで違う、静かな空間が広がっていて、背筋が伸びるような気がした。
佐原ひかり先生のイベントに初参加
私と佐原先生の作品との出会いは、「ブラザーズ・ブラジャー」という物語だった。まず表紙のブルー×ホワイト×イエローのさわやかさに惹かれ、帯の「新しく弟になったのは、ブラを好きな男の子だった」という一文に心を動かされるのだ。私は「好き」という感情に弱い。「好き」という気持ちにまっすぐに向き合っている姿にとても弱いのだ。本作の「ブラを好きな男の子」晴彦は、自分の「好き」に嘘をつかない。その姿が眩しくて素敵で、彼に対して戸惑う気持ちを持っている義理の姉・ちぐさの感情もリアルで愛おしい。
読み出してすぐに「これは好きなやつだ!」と感じ、読み終わってからも大好きだった。そして次に手に取ったのは「スターゲイザー」。これは本当に本当に強く推したい物語なのだが、もはや好きすぎてどうやって人に勧めればいいのかがわからない。簡単に言うとアイドルの話だ。これまでアイドルを題材にした小説は女の子のアイドルをメインに描いているものが多い印象だったが、本作は男の子のアイドルのお話。アイドルではなくても誰かを応援したことがある人には絶対に刺さる一冊だ。作品を読んで、佐原先生のXのアカウントをフォローした。
佐原先生のXで、新刊「ネバーランドの向こう側」が出ることと、トークイベント&サイン会が開催されることを知った。私は「好き」や「支えになってる」など、プラスの言葉は絶対に人に伝えるべきものだと思っている。伝えられる人に、伝えるべきときに伝えるものだと思っている。
山本文緒先生に伝えなかった後悔
私は山本文緒先生の物語がとても好きだ。私と本を強く結びつけてくれた作品で、初めて読んだときの「おもしろすぎる」という衝撃は今でも忘れない。そんな山本先生は、2021年にこの世を去った。まだ58歳だった。そのときの頭を殴られたみたいな、そして背中が冷えるような感覚は、忘れられない。
Xのタイムラインでそのことを知って、思わず画面をスクロールする指が止まった。こんなに大好きだったのに、私は伝えようとしなかった。ファンレターでもなんでも、書けばよかったのに。こんなに「伝える」ことは大切だと思っていたのに、私のそのベクトルはアイドルにしか向いていなかった。
そのときに、本当に強く思った。アイドルでも作家さんでも友達でも家族でも、プラスの感情は伝えるべきだ。「あのとき言えばよかった」の“あのとき”は、過ぎてしまえば絶対に戻ってこない。
作家さんのイベントは初めてで、どうしようと悩みながらも、私は山本先生への後悔を繰り返したくなかった。佐原先生はXをよく見てくれているため、文字ではいつも伝えてきたつもりだった。でも、会って伝えたい。悩みながらもチケットを購入する。佐原先生に渡すプレゼントや手紙を用意する時間、「ネバーランドの向こう側」を読んでいる時間、なんだかドキドキした。「初めて」はいくつになってもドキドキするし、わくわくする。
本好きが集まる温かい空間

そして当日。15分前に会場に着くと、その場のほとんどの人が本を開いていた。普段過ごしていると、本を読んでいる人や本が好きだという人になかなか出会わない。私は読書会などにも参加したことがないので、本好きの人をX上でしか見てこなかったのだと思う。会場に足を踏み入れたとき、こんなにも本を好きな人がいるのかと、密かに感動していた。
佐原先生はとてもかわいらしくて、おもしろくて、お話がとても上手な方だった。ファッションから佐原先生らしさが溢れ出ていて、人柄がオーラのように現れる人は本当に素敵だな、と改めて感じた。ドキドキしながら書いた質問を読んでもらえたり、実際にお話ができたり、行ってよかったと心から思えるイベントだった。
特に、小説を書くモチベーションに「お金」と「読者」と答えていたことはとても印象的だった。当たり前だが「職業:小説家」であり、その姿勢がかっこいいと思った。
サインをいただくときも、佐原先生は気さくに話しかけてくれて、緊張がどんどんほどけていった。私のスマホケースに挟んでいるものを見て、私の好きなものを推測してくれたり、ずっと笑顔で話してくれたり、ツーショットまで撮ってくれたり。そこに集まっている方々もとても温かく、ひとりひとりのツーショットが終わる度に拍手が起こっていたのには驚いた。温かい空間すぎる。
好きを伝えること
好きなことを好きだと言うことや、それを伝えることは、簡単なようで実は難しい。一人で「好き」と言うのは簡単だけど、実際にその人に「伝えよう」と思って行動することは容易いことではないと思う。今は「推し活」という言葉がブームになり、実際に話せたりSNS上でやり取りができたりと、昔に比べて距離感が近いアイドルが多い。だから余計に「好き」と直接言えることは「普通」だと思う人も多いだろう。
しかし、好きと言える場があることや、その人が言葉を受け取ってくれることって、奇跡みたいなことだ。佐原先生に思いを伝えられたこと、実際に会いに行けたこと、本当に本当によかった。
「好き」という気持ちを真摯に持つ清々しさは、佐原先生の物語から教えてもらったことでもある。私はこれからも、好きなものを好きと胸を張って言いたいし、好きな人には好きと、まっすぐに伝えたい。


