本と映画と、少し寄り道

小説と映画の感想文をゆるゆると。

芥川賞・直木賞『該当作なし』から見えた本を愛する人たちの想い「本屋さんへ行こう」

芥川賞直木賞ともに該当作なし」。そのニュースを目にした瞬間、思わず「えっ」と声が漏れた。私は毎年リアルタイムでその発表を見ているわけではなく、主にXを通じて情報を得ることが多い。今年の発表日は、Xがざわついていた。そのざわつきに違和感を覚えながら、スマホをスクロールしていると、すぐにそのニュースが目に入ってきた。

 

毎日新聞によると、両賞とも該当作なしは1997年下半期の第118回以来27年半ぶりのこと。90年以上にわたる両賞の歴史の中でもこれまでに5回しかないという。Xでは、普段から読書を楽しんでいる人はもちろん、数多くの作家からもさまざまな声があふれていた。

 

私はどうしても「読者目線」となるため、率直な感想は「残念」だ。驚きのあとにすぐにじんわりと悲しい気持ちが胸に広がっていった。どかん、という悲しみよりも、じわじわと「悲しいな」と感じる感覚。やはり芥川賞直木賞は、本業界が盛り上がる賞でもある。普段本から遠い人や、忙しくて本を読む時間がない、という人も「読んでみるか」と考える機会となり、本業界全体が盛り上がる。

 

受賞作は私たちの共通言語のようなものになり、感想も多く投稿される。本当に純粋な「読者目線」で言うと、私はその盛り上がりを毎年楽しみにしており、今年はその盛り上がりがないのかと考えると悲しかった。しかしこれはあくまでも「読者目線」の話で、非常に個人的な感情だ。

 

このような問題には、あらゆる「目線」がある。大きく分けて「読者目線」「候補作の作家目線」「選考委員目線」「周りの作家目線」「普段読書をしない人の目線」、そして「書店目線」だ。

 

「選考委員目線」に立つと、もちろん受賞作を出したかったに違いない。直木賞選考委員の京極夏彦さんは、記者会見で「極めて最後までそれぞれの選考委員が受賞作を出そうとあがいていた」と話したという。選考委員はきっと真摯に作品と向き合い、もちろん真剣に議論を重ねたのだろう。無理やり受賞作を出すよりもよっぽど誠実で健全だ。そしてこの結果は、賞の権威を尊重し、高めるという結果でもある。つまり、受賞作がなかったからといって、その事実はマイナス面だけではない。

 

しかしやはり一番気がかりなのが「書店目線」。丸善丸の内本店の公式Xは「書店員、泣いてます。お客様も驚いていらっしゃいました」、未来社書店商品企画のXは「正直に言います。芥川賞直木賞の売上がないのは、大打撃ですよ。代わりに何ができるか考えなくては。とりあえず、今言える事は本、買ってください!!!」と投稿した。正直な言葉は、見れば見るほど胸が苦しくなる。

 

怒りのポストをしている人たちも少なからず見た。「こんなにおもしろい本が評価されないなんておかしい」というポストや、「なんで?」という声。それは、本を愛しているからこそ出る言葉だとも思った。そう、みんな本を愛しているのだ。どの目線でもその事実はきちんと伝わってきて、数々のポストを見て目が潤んでしまった。

 

その中でも、本当にそうだなと共感したのは作家の村山由佳さんのポストだった。

 

芥川賞直木賞は売れる本を作るためのものではない、のは大前提として、『該当作なし』が全国の書店さんにとってどれほどの大打撃かを思うと胸が苦しい。と同時に、選考委員の方々の心情もまたいかばかりかと思うのです。なんとか受賞作を出したかったにきまってるもの。落とすほうが辛いよ…。」

 

「面白い本が必ずしも賞を獲るわけではない。賞を獲ったから良い小説だとも限らない。一冊の小説の値打ちは、その作品を読んだ人が、読んだ人だけが、それぞれ決めるものです。他の誰の評価も必要ない、自分だけの宝物となるような小説との出会いがきっとある。それを探しに、今こそ本屋さんへ行こう。」

 

 

仕事などで読まなければいけなくて、どうしても急ぎで欲しい本があるときはネットを頼ることもあるが、私はそれ以外は必ず書店で本を購入している。それは「書店を助けたい」とか、そんな大きな気持ちではなく、書店の方が「見つかる」からだ。

 

村山さんが言う「自分だけの宝物となるような小説」が見つかるチャンスが圧倒的に多い。ネットは、欲しい本のタイトルを検索し、その商品にすぐにたどり着くことがメリットだ。しかし私は、書店で欲しい本を探しながら他の本も目に入り「これも欲しい」「あれも欲しい」と考える時間が好きだ。読んだことのない話でも、装丁に惹かれたり、書店員さんのポップに惹かれたり、何に惹かれたのかわからないけど惹かれたり。そんな運命みたいな出会いが、書店には転がっている。

 

「次のお小遣いをもらったら買うぞ」とわくわくしながら来月を待った学生時代。「この資料買うなら小説か漫画買いたいなぁ」と失礼なことも思っていた大学時代。「本読む時間ない」と思いながらも書店に入ると必ず欲しい本があって困った社会人1年目。「今年のフェアの栞は大きいんですね」と書店員さんと笑い合った先月。おばあちゃんからもらってうれしかった図書券。そのどれもがビー玉のようにきらめく思い出であり、そこには書店があった。

 

これからもたくさん本を買おう。これからもたくさん書店で思い出を作ろう。そして来年の今頃、また「今年はどの小説が選ばれるかな?」って、みんなでわくわくしよう。

 

alittledetour.hatenadiary.jp

 

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