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久しぶりの図書館で感じた静寂の価値|大人になって気づく『本と向き合う時間』の意味

「なんて静かな空間なんだろう」。久しぶりに図書館を利用して、その場所の空気を感じてそう思った。蝉の声がようやく聞こえてきた7月下旬、私は学生の頃ぶりに図書館に行った。坂の上にあるその図書館は綺麗で静かで、周りの空気全体が異世界のようだった。

 

私は7月から「近代文学を読む」という小さな挑戦を始めた。私は文学部日本文学科出身だが、そのような歴史的な文学にあまり触れてこなかった。大学時代は苦手意識があり、現代小説を読んでいたし、卒論は言語学を選択した。それが今大人になって、「あのときもっと学んでおけばよかった」と思う。

 

図書館や図書室には、特別な思い出がある。私は学校や予備校の自習室が苦手だった。勉強をするには最適の場所ともいえるが、全員が全員受験勉強に向き合っている空間が息苦しくて、途中で体調を崩して退室したこともある。しかし家ではどうも誘惑が多くて集中できない。そこで私が利用していたのが学校の図書室だった。

 

図書室には、いろいろな人がいた。授業をサボってぼーっとしている人や、私のように勉強をしている人、もちろん読書をしている人。知っている顔も知らない顔もあって、時々聞こえてくる部活に励む生徒の声や校内放送も心地よく安心するものだった。その頃から私は図書室が好きで、特別なものだったのに、大人になると一気にその空間から遠ざかった。

 

近代文学にチャレンジする夏にしよう、と決めたはいいものの、私は作品が書かれた頃の時代背景もわからなければ、作家同士のつながりもわからない。わかるようになればもっと理解できるだろうな、と思った私は、ふと「図書館に行こう」と思いついた。調べ物というと、今はインターネットが主流だし、それを使うことは正しい。しかし、文豪のことともなれば、実際に本で調べることにこそ「粋」があるのではないか。そんな単純な思考で、私は図書館に行くことを決めた。

 

近くの図書館を調べて、私は神奈川県立図書館に行くことを決めた。桜木町駅から約10分。なかなか急な坂を登ると、そこに静かに図書館が佇んでいた。周りの環境から静かで、風の音だけが聞こえるような状況に、私はすっかり魅了された。図書館を見上げて、ひとつ息をつく。周りには緑があり、風の音がして、目の前には伊勢山ヒルズという結婚式場がある。

 

神奈川県立図書館



中に入って、その静寂さに驚いた。普段、都内で仕事をしている私は、そんな静寂からは離れて生きている。人がいるのに、音がほとんどしない。たまにしても、併設してあるカフェの音や、本をめくる音、パソコンのタイピング音くらいだ。しかもそれはあまりにも図書館に馴染んでいて、まったく気にならない音だった。

 

入口からすぐにカフェがあり、左手にはギャラリー、そして机がずらっと並んでいた。その机には学生からお年寄りまでさまざまな年代の人がいて、みんな思い思いに勉強をしたり本を読んだりしていた。高校時代の記憶が鮮やかに蘇る。制服姿の自分が浮かび上がるようだった。

 

図書館に併設していた猿田彦珈琲

私はまずカフェでアイスコーヒーを飲んで、検索機で本を検索し、その付近にあった本を順番に眺めた。太宰治の人生についての本や、三島由紀夫の文体に特化した本、近代文学史をまとめている本…中には黄ばんでいる古そうな本もあった。膨大な本の中には「歴史」があって、文豪たちが残した物語を研究し、理解してきた人たちがいる。本と向き合うたびに、まるでその作者と「はじめまして」と対面している気持ちになった。

 

本の中にあるのは、インターネットにもある情報なのかもしれない。しかし、自分で本を選んでそこから得る知識は、インターネットですぐに手に入る知識よりもどこか愛おしく感じた。じっくりと本を選んで、体に染み込ませるように理解する時間。昼過ぎに行って、結局閉館時間の19時までいてしまった。あまりにも居心地がよく、静寂が優しかった。

 

図書館は、あらゆる人に拓かれている。ルールを守れば市民は自由に利用できる。調べたところによると、特に本を借りなくてもいいし勉強をするだけでもいいらしい。昔は図書館は「本を借りる場所」というイメージだったが、現在の図書館はWi-Fiや電源があったり、カフェがあったりと、「居場所」のような顔も大きいのだと実感した。

 

外に出ると、もう暗くなっていて、昼間から比べると幾分涼しかった。静寂が続いている坂道を下って少し歩くと、そこは駅だ。明るくて、ざわざわしている。まるでどこか違う世界へ旅をして、帰ってきた感覚だった。調べ物があるときはもちろん、疲れたときや一人になりたいとき。またあの世界へ行こう、と強く思った。

 

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