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三島由紀夫『金閣寺』は難しすぎた|それでも読み切れた理由と現代に通じる美意識

正直に言おう。三島由紀夫の『金閣寺』は、私には難しすぎた。それでも最後まで読み切れたのは、この作品が持つ『美への異常な執着』にどこか心を掴まれたからだ。

三島由紀夫金閣寺

 

 

この物語のあらすじを一言で言うにはあまりにも難しい。Amazonから引用すると「吃音の悩み、身も心も奪われた金閣の美しさー昭和25年の金閣寺焼失事件を題材として、放火犯である若い学僧の破滅に至る過程を抉る問題作」。このあらすじだけ読むと、ミステリー的な展開や、ハラハラする物語、と考える人もいると思う。しかし、そんな簡単な話ではない。

 

主人公は吃音に悩んでいる青年・溝口。彼は、昔から父に「金閣寺の美しさ」を教えられていた。金閣寺を見たことがない頃から、溝口は金閣寺が美しいと思っていた。やがて父は死に、溝口は金閣寺の学僧になる。それまで吃音をからかわれることもあり、孤独だった溝口は、そこで鶴川という友人ができる。鶴川は、溝口の吃音もまるごと「その人」として受け入れてくれる「陽」の存在だった。その後、溝口はまるで自分の鏡のような存在・柏木とも関わるようになる。この二人との出会いが、溝口の生き方に大きな影響を与えていく。

 

初めて三島由紀夫の作品に触れた私としてはこの物語は難しかった。固有名詞も多く、人物のせりふが少ない。そして哲学的で回りくどい文章もかなり多くあった。難しい作品を読了したいとき、私は途中からある種の諦めを抱えながら読むことにしている。この作品も、途中からは拾い読みをしていた。しかし、それでも読み切りたいと思わせる魅力が確かにあった。

 

それは、溝口が支配されている「美」への執着だ。彼の執着が、最終的にどのような結果になるのか。それを見届けなければいけないという使命感で読み切った。

 

溝口は父からの教えにより、金閣寺へ強い執着を持っていた。金閣寺はこの世の何よりも美しいと思っており、吃音の自分はまったく美しくない存在だと思い込んでいる。

 

彼は初めて金閣寺を目にしたときに、自分が想像していたよりも美しくないことに驚き、落胆する。しかし不思議なことに、時間が経つと、想像の中の金閣寺と現実の金閣寺が混ざり合い「やはり金閣寺は美しい」という考えになっていく。

現代にも通じる「美意識」

溝口が生きている時代は戦時中と戦後だ。溝口が金閣寺で学僧になったあるとき、溝口は「金閣寺が空襲で焼けてしまうかもしれない」と考えるようになる。この考えにたどり着いた溝口は、ここでも「金閣寺は美しい」と実感する。“失われてしまうかもしれない”という感情は、美しさと直結する

 

これは現代にも通ずるものがある。例えば、私が美しいと思うものに「女性アイドル」の存在がある。彼女たちはいつもステージでキラキラの衣装を着て、大量の照明を浴び、どんなに動いても前髪を崩さず、笑顔で歌って踊っている。私は女性のアイドルのステージを見ているとき、必ず泣いてしまう瞬間がある。

 

もちろん例外もあるが、女性アイドルに卒業はつきもので、ステージで輝く彼女たちを見ていると「この姿をあと何年見られるのだろう」という感情に襲われる。もちろん永遠であってほしいし、ずっとアイドルをしている姿を見ていたい。しかし、多くのアイドルには期限があることも、「永遠」が存在しないこともわかっている。いつか見られなくなる、この時間が失われてしまうかもしれないから儚く、眩しく、美しい。女性アイドルのステージからは、まさに“瞬間の美”を感じる

 

溝口が最後にたどり着いた「金閣寺を燃やしてしまおう」という答えは、非常にセンセーショナルで、極端だ。溝口はずっと「生」の美と、「観念」の美の間で揺れていた。人間的な「生」の美に直面するとき、どうしても彼の中で「観念」の美の象徴である金閣寺が姿を現し、うまく人間関係を成立できない。それは友人関係でも女性関係でもそうであり、幼い頃からの彼の屈折した性格と、金閣寺への執着がずっと邪魔をしてきた。

 

文学というのは人それぞれの解釈でいいし、筆者も100%理解してほしいとは思っていないと思う。逆に、100%読者に読み解かれてしまったらそれはそれで悔しいのではないか。「わからない」、それもひとつの感想だ

 

難解な作品に向き合うことで気づいたことがある。それは、完全に理解できなくても、その作品が投げかける問いや、登場人物が抱える思いと向き合う時間、考える時間そのものに価値があるということだ。

 

人の成熟度や経験によっても文学の受け取り方は違う。10年後この作品を読んだとき、私はまた違う感想を持っているだろう。10年後の自分に問いかけたい。溝口の行動の理由、三島由紀夫が投げかけたこと、理解できましたか?

 

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