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【実写化】『ブラック・ショーマン』原作感想|福山雅治キャストで見えた新しい読書体験

実写化が決定している作品の原作を読むことが苦手だ。俳優たちが決まっていると、どうしてもその俳優を頭に浮かべながら読んでしまうからだ。自分の想像力を勝手に狭められている感じがして、なんだか悔しい。しかし今回読んだ『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』は、初めて俳優が頭に浮かんでいてよかったと思う作品だった。おそらく福山雅治が頭に浮かんでいなければ最後まで読みきれなかった。

 

◆『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』

 

 

物語の舞台はコロナ禍に苦しむ小さな町。結婚を控えた真世は、ある日突然父が殺されたという知らせを受けて故郷に帰る。するとそこには叔父で元マジシャンの神尾武史がいた。武史は警察を頼らずに自らの手で犯人を見つけるという。かつて教師だった父を殺した犯人は、真世の同級生の中にいるのか。その謎を突き止めるために、真世も武史に協力することになる。

 

この手の話を読むたびに気づくのだが、どうやら私はサスペンスは大好きだがミステリは苦手らしい。ミステリは謎解きがメイン、サスペンスは人の感情面の描写が中心というジャンルだ。登場人物と一緒に推理をしながら読めればミステリも楽しめるのにな、と思うのだが、残念ながら私にそのような推理力はない。

 

しかし東野圭吾の作品は、これまでにも何度も読んでいるし、文体も読みやすいため、きっと読み切れるだろうと確信していた。東野圭吾の作品は私にとって不思議な存在で、熱狂的なファンではないが定期的に読みたくなる。特に『秘密』や『白夜行』などは大好きな作品のひとつだ。

 

福山雅治効果で苦手なキャラクターが魅力的に

 

今回は映画化が決定した上で読んだ。話自体は結構淡々と進むため、本作はキャラクターの魅力がこの作品の肝となるという印象だった。実写で武史を演じるのは福山雅治さん、真世を演じるのは有村架純さんだ。武史はなかなか癖のある人物で、言葉遣いなども“キャラクター”めいている。私はどうもこのキャラクターめいている“ザ・フィクション”みたいな話し方が苦手だ。正直、武史は苦手なキャラクターだった。

 

しかし武史を福山さんで思い描くとどうだろう。悪くない。というか、かなり良い。武史という輪郭がはっきりと思い浮かび、頭の中で福山さんの武史が動き回った。甘い顔に低い声、そして少し皮肉っぽい話し方で曲者。福山さんの声や話し方を想像することで、頭の中でキャラクターが生き生きと動き出し、物語への没入感が格段に増した。読み始めたタイミングで予告が公開されたこともタイミングがよかった。物語の世界が一気にクリアになった。

 

実写化が決定している作品を読むことは、自分の想像力が狭められる気がしていたが、逆の効果もあるのだと今回の読書体験で知った。本来であれば最後まで読めなかったかもしれない作品が、キャラクターをクリアに想像することによって最後まで楽しめて読めたのだ。

 

本作はもちろん事件の謎を解くことが主題なのだが「結婚」「コロナ禍」「故郷」というキーワードも色濃く描かれている作品だ。もう現在ではひとつの思い出のように気軽に語られるが、コロナ禍でうまくいかなかったことは山ほどあった。リモートワーク導入による生活リズムの変化、どことなく鬱屈とした気持ち。そのあたりにも触れているので、作品にはどことなくどんよりとした雰囲気が漂っているのだが、武史というキャラクターの濃さで一気に色がつく。武史の”元マジシャン“という経歴と、謎を解く中でのショーの見せ場は映像にしたときに映えるシーンとなるだろう。福山さんが魅せてくれる武史の華やかさが今から楽しみだ。

 

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