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【読書感想】綿矢りさ『オーラの発表会』ー少し変わった女の子・海松子から学ぶ人との距離感

綿矢りささんが生み出すキャラクターはなんでこんなにチャーミングなのだろう。彼女たちが織りなす会話や、文字からだけでも伝わってくる空気感。まるでそこで一緒におしゃべりをしているみたいに楽しくて、一人でカフェでにやついていた私は相当変な人に見えたはずだ。本作の主人公・海松子は世間から見ると少し変わった女の子だ。綿矢さんの物語を読むと、どんなことも個性になるのだと強く実感させられる。

 

◆『オーラの発表会』/綿矢りさ 少し変わった女の子・海松子の物語

 

 

主人公は大学入学と同時に急に望まない一人暮らしをすることになってしまった海松子。彼女は少し変わっていて、人を好きだという気持ちがわからず、他人にもあまり興味がない。実家が大好きだが、両親から言われるがままに両親が決めたアパートで一人暮らしをすることになる。そんな彼女にも友達はいる。なんでも人の真似をして煙たがられてしまう萌音という女の子だ。しかし海松子はそんな萌音の性格を“個性”だと思っていたため、高校時代にいくら真似をされても他の人のように怒ることはなかった。この本は、人間関係という面で不器用な海松子が「他人と生きていくこと」を知っていく物語だ。

 

海松子は、人が食べたものを口臭から当てられる特技を持っていたり、脳内で人に変なあだ名をつけていたり。確かに変わっている女の子である。学食を食べた後の同級生のメニューを当てて困らせたり、萌音のことは心の中で「まね師」と呼んでいたり。ちなみにうっかり萌音を「まね師」と呼んでしまい、萌音を怒らせたこともある。周りの大人からは「いじめられている」と思われていることがあっても、本人はそれがいじめだと気づいていない。心がないわけではなく、自分の世界を自分らしく生きている。

 

◆世間の価値観をものともしないナチュラルボーン海松子

 

これは海松子が一人っ子であることも大いに関係しているように思う。作中にはっきりとは書かれていないが、海松子は両親から大きな愛情を受けて育った一人娘だと思われる。かくいう私も一人っ子で、両親と祖母から大切に育てられてきた。外で遊ぶよりも家が好きだったし、大人数より少人数が好きで、それは今も変わらない。そして子どもの頃から「マイペース」と言われてきた。この「マイペース」という言葉。子どもの頃は気づかなかったが、正直これはうっすら悪口だと思う。

 

「マイペース」とは、自分のペースを崩さない人、つまり人に合わせない人のことだ。もちろん良い意味で使っている人もいると思うが、私は散々言われてきたこともあり、どうしてもどこかに棘を感じる。一人っ子は、自分の世界を持っている人が多い。つい先日もエックスで「一人っ子あるある」が話題になり、エックス上の一人っ子は少々肩身の狭い思いをした。

 

そんな世間の価値観もあり、なんとなく「きょうだいは?」という質問が苦手だった。「一人っ子」と答えたときに、うっすらその場の空気が変わるのがわかるから。だから私は、家族や親友、彼氏など本当に自分と近い人間以外には人一倍気を使ってきた。嫌われないように、どんな空気の揺れも見逃さないように。

 

海松子はそんなことはしない。未経験のことにぶち当たったときに悩みはするが、自分を曲げることはしない。だからといって頑固なわけでもなく、友人の萌音の言葉は比較的素直に聞く。特に恋愛関係の問題になると海松子の脳はショートしたようになり、気持ちがわからなくなってしまう。そこで海松子は萌音に相談するのだが、バシッと音がするくらいに明確な萌音のアドバイスもおもしろい。

 

不器用ながらも人と関わり、時折パニックになってしまう海松子という存在が、私は愛おしくて、かわいくて、かっこよくてたまらない。周りとの距離感や少しの衝突ですぐに変わる関係性に怯えていた学生時代に海松子に会いたかった。

 

◆誰かと混ざり合うことで開ける宇宙

 

自分を置く環境が変わると、周りにいる人たちも変わる。その変化が私は何よりも苦手だった。大人になった今は、多少我慢して飛び込むことも必要だとわかっているが、学生時代はとにかくそれが悩みだった。新しいバイト、新しいゼミ…何度も想像してみた、なりたかった自分になれた試しがない。

 

少しずつ人と関わっていくことで、海松子の世界はどんどん開けていく。海松子が何か明確な努力をしなくても、自然に身を任せて誰にも飾らずにいると、周りの人と自然な関係性ができていくのだ。人は究極ひとりでも生きていけるが、他人と関わることによって新たな世界が広がる。自分でも思いつかなかった行動をしたり、出会うはずのない人と出会ったり。変わる空気に怯えて自分を隠さなくても、自然体でわかり合える人はどこかにいる。だって世界は私たちが想像するよりも広いのだ。

 

私は大人になった今でもひとりの時間が好きだ。本を読んだり映画を観たりぼーっとしたり、自分のペースで過ごすことが好きだ。それはきっと一生変わらない。しかし大人になってさまざまな人と出会い、経験をして、人と関わることの意味も知った。たとえそれが自分とは違う“変な人”でも、話してみるとまるで自分の中の宇宙が広がったような気持ちになる。

 

私の中では海松子もその一人。物語の登場人物との出会いは、いつも私の世界を広げてくれる。『オーラの発表会』は、誰かと関わるのが怖いと思っている人にとってお守りとなるような物語だ。

 

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