学生時代、いわゆる「名作」と呼ばれるものをあまり真剣に読んでこなかった。やはり「難しい」というイメージがあったし、歴史背景などを知らないと理解できないと思っていたからだ。そんな私は、大人になってから太宰治や夏目漱石を読んだ。すると、時代を超えたおもしろさにすっかり魅了された。その中でも特に読みやすかった作品を紹介する。
■『人間失格』/太宰治|現代にも通じる「生きづらさ」に触れる
まずこの作品、正直に言うと暗い。読み終わると若干ずーん、という気持ちになる。なんてったって書き出しがこうだ。
「恥の多い生涯を送って来ました」。
そりゃあ暗い。しかしこの生きづらさを描いていることこそが、太宰作品の魅力でもある。主人公は、幼い頃から人間に恐怖を抱き、人間の生活や人が感じる幸せを理解できない葉蔵。自分はその感情がわからないが「どうすれば人が喜ぶのか」ということは理解出来る。そのため葉蔵は、いつも「道化」を演じて人の生活に入り込むことに決める。
このあらすじだけでも、どこか現代に通じるものがある。現代はSNSが発達していることもあり、「本来の自分」と「SNS用の自分」を使い分けている人も多い。というか、ほとんどの人がそうではないだろうか。1948年に出版された物語でありながら、現代とリンクする部分が多く、それを踏まえながら読むとかなり読みやすく感じるはずだ。
個人的に注目したいのは、葉蔵のモテ要素だ。この男、よくわからないのにとにかくモテる。どんなに近づいても心に触れた感触がない男。どの時代でも、ミステリアスな人は魅力的なのかもしれない。
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■『女生徒』/太宰治|少女の心を描く短くさわやかな青春小説
本当に『人間失格』を書いた人ですか?と疑いたくなるほど、さわやかな物語、それが『女生徒』。この作品の魅力は、1人の少女の1日の心の動きを丁寧に描いていることだ。正直大きな事件は起こらない。本当に少女の日記を読んでいるような、いや、それよりもっと、自分が少女のような感覚になる物語。
思春期は、いろいろなことを考える。少し前まで好きだったものが嫌いになったり、急に親の言うことがうっとうしく感じたり。過ぎてしまえばそれは「思春期だった」と思えるけれど、真っ只中の頃はそうは思えない。学生の場合は「わかる」と共感する部分もあると思うし、自分とリンクさせながら物語を読むこともできると思う。
本作は、少女が朝目を覚ましたところから始まって、ただただ1日の生活のことが描かれる。お母さん、なんかムカつくんだよな。死んだお父さんが恋しいなぁ、お姉ちゃんに甘えたいけどお嫁に行っちゃったから無理だよなぁ恋しいなぁ、みたいなことがつらつら描かれる。特にリアルなのは「私はこれからどうなるんだろう」と漠然と不安になっているところ。
少女の思考は、どこまでも自由。思考なのだから、何を考えたっていいのだ。自分の心は自分だけのもの。その瞬間に感じる心は、自分だけのもの。そんな簡単なことを、現代に生きているとついつい忘れてしまう。現代人は、忙しい。たまには自分の心だけに、思考だけに集中してみるのもいいのではないか。そんなふうに思えるさわやかな物語だ。
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■『こころ』/夏目漱石|恋の魔力を改めて知る
国語の教科書にも載る名作『こころ』。これはハッキリと「恋」の物語だ。本作が書かれたのは1914年。なんと今から約111年前である。しかし読んでみると、やはりどこかで共感できる部分がある。人間は「恋」を目の前にすると、自分でも知らなかったどす黒い自分に出会うことになる。
本作は前半は『私』、後半は『先生の遺書』で構成される。中でも『先生の遺書』はあまりにも有名だ。前半は緩やかに物語が進み、正直「まどろっこしい!!」と感じることもある。しかし辛抱強く中盤まで読んでいくと、そこから一気に話が進む。前半は、先生のことがよくわからない。絶対に秘密を隠しているということしかわからない。
『先生の遺書』には、恋と友情に揺れる先生の葛藤が書かれている。まさしく三角関係。恋を目の前にすると、人間は理性が吹っ飛ぶ。過去の自分の恋を思い出しても「あのとき私おかしかったな…」という恋が、誰にでもあるのではないか。約111年前にもその「理性が吹っ飛ぶ」様子が描かれているのだから、やっぱり恋というものは魔力があるのだ。
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この3作で迷ったら、短く読みたい人は『女生徒』、生きづらさに触れたい人は『人間失格』、恋愛の怖さを読みたい人は『こころ』がおすすめ!近代文学はどうしても難しいと思いがちだけど、実は現代とリンクしている部分が多くある。それこそが、これらの物語が長く愛され読み続けられている理由なのかもしれない。