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小林早代子『みんな、好きが下手』感想|本気であるほど、好きが下手になる

自分の『好き』という気持ちに自信がある人はいるだろうか。私はどちらかというと自信があるタイプだったんだけど、時々「おや?もしや私の『好き』は気持ち悪いのでは?」と思うことがある。それはその「好き」の対象に近づけば近づくほどそう思う。

 

■『みんな、好きが下手』/小林早代子

『みんな、好きが下手』/小林早代子

小林早代子さんの『みんな、好きが下手』は大学生のジン太を主人公にした物語。一言で言ってしまうと青春恋愛小説!という感じなんだけど、そんなにさわやかなものではなく、ヒリヒリもたくさん詰まっている。ジン太はいわゆる陽キャのタイプで、家族仲はよくて幼なじみもいて友達もいてまあまあモテる大学生。もうこんな性格なら人生勝ちじゃん!?と思いながら読み進めていると、どうやらそうでもないことに気づく。

 

彼、どうでもいいことはべらべらしゃべれるのに、肝心の言葉がいつも言えない。「好き」「ありがとう」「ごめんね」。正直、ちょっと遠目から見ている分には楽しい男だが、近づいてみると「なんなんお前!?」ってなるタイプである。ただ、ジン太の一人称視点で話が進むため、ずっとジン太のことを憎めない。なんなら愛おしい。

 

■言葉にしないと伝わらないこと

 

ジン太が言えない「好き」「ありがとう」「ごめん」は、本当は言わないと伝わらない。「察してよ」とか「わかるでしょ」とか、言えない立場から言わせればいろいろ理由があるのかもしれないけれど、決して伝わらない。もちろん言わなくても伝わる気持ち、というのはある。例えば、自分が好きだと言ったものを覚えてくれていたり、泣いているときに笑わせてくれたり、辛いときにそばにいてくれたり、そういうこと。しかしそれは、言葉が先にあるからこそ伝わるものでもあると思う。

 

だから、言葉に出来ないジン太が、好きな子とどんどんすれ違ってしまう様は、見ていて可哀想だけれど当たり前だよなぁとも思う。でも、ここでふと自分のことを考える。私は比較的そういったことは言葉にできるタイプだけれど、最初からそうだったのだろうか?

 

■私もかつて、言えなかった

 

自分の記憶を巻き戻していくと、ぴたっと止まる地点がある。それは高校1年生のときだ。その頃私は初めての彼氏ができた。片思いしていた人だったから、告白されたときはもうそりゃあ嬉しくて有頂天になった。しかし、その後つきあうことになって、めちゃくちゃ恥ずかしかった。電話しようと言われても断っていたし、デートもなんならあまりしたくなかった。好きと言うなんてもってのほかで、私は彼からずっと逃げていた。あんなにも大好きだったのに。

 

ダメだと思っていた。こんなことではいけない、と。しかし私が気づいたときにはもう遅くて、彼は明るくて素直な私の友達のことを好きになっていた。私は振られて、彼はその子とつきあった。2人はとても仲が良さそうで、楽しそうだった。なんでああやって出来なかったんだろうな、と何回も後悔した。そして私は思った。ちゃんと好きって言おう。恥ずかしいなら恥ずかしいって言おう。

 

言えば、大体の人はわかってくれる。きっと彼にも「恥ずかしい」と言っていたらわかってくれたはずだ。いや、これはちょっと彼を過信しているかもしれないけど。つまり、言わないで後悔したり、誰かを傷つけたりしてしまったときに、人は自分の気持ちを言葉にしよう、と学ぶのだと思う。

 

■本気であるほど、好きが下手

 

本作は『みんな、好きが下手』というタイトル通り、ジン太以外にも不器用な大学生たちがたくさん登場する。どの子もそれぞれなんだか拗らせていて、読んでいるとハラハラ…というかじくじくする。過去の自分を見ているようで。ジン太は重たい愛を投げかけられるのが得意ではない。でも私はどちらかというと、重たい愛を投げる方の気持ちがわかってしまう。ジン太の一人称で読んでいると「これって迷惑だったんだ…」と思う瞬間もたくさんあって、背筋がちょっとひんやりした。私もおそらくやったことがある、重たい愛を投げること。

 

でも、『みんな、好きが上手』だったらどうなのだろう。それはそれでつまらないのではないか。恋愛って、やっぱり拗らせて拗らせて視野が狭くなってドロドロしてなりふり構わなくなって…みたいな一面がある。だからここまでいろいろな物語になっているし、語られるのだ。不器用だけど今を生きている!!という感じのジン太たちを見ていて、「別に下手でもいっか!」とどこか軽やかな気持ちにもなった。

 

そう、私たちはきっと、本気であればあるほどに、好きが下手なのだ。

 

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